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6話 仮説と考察

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-04-22 11:02:44

「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」

部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。

「色々だね。今現在活動しているのは三人。

まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」

私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。

「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」

直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。

「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」

「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」

私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。

「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」

「か、可愛いですか……えへへ……」

「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」

「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」

相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。

「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」

「二つ……聞かせてもらえますか?」

「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。

だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」

予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。

「それで二つ目は?」

「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」

「っ!?」

だが二つ目の仮説はまさかの大正解だ。

「一つ目の仮説も捨て難いが、やっぱりキュアヒーローの力はオーバーテクノロジーな気もするんだ。ハッキングめいた配信システムも含めてね。

だから宇宙人が地球に来て、有害性がないことをアピールするために技術を貸し出しているってところかな。それともキュアヒーロー自体宇宙人か……ん〜想像が広がってぞくぞくするね」

かなり真相に迫っており私の背中に冷たく嫌なものが流れる。

「えっともしかしてキュアヒーローが誰か分かってたり……?」

「んーそれはまだかな。調べようとはしてるけど何も見つからなくてね。監視カメラを見せてもらおうにも許可は降りないしね。警察も動く気配がないし」

一応政府のお偉いさんにはキュア星人の方から話を通しているらしい。難しい話は分からないが当面は国や警察はキュアヒーローが活動しやすいよう情報を規制してくれるそうだ。

だが健さんのように個人で調べたりする人に対しては何も対策できていない。これはキュアリンに報告しておくべきだ。

「あっ、こっちがB棟でそっちがC棟ね。まぁ大体講義室とかがあるだけでA棟とは大差ないね」

入ってきたところとは別の出入り口から出て屋根のある道を歩き、私達はB、Cと順に棟を歩いていく。

「げっ、健お前また変なことしてな……」

そんな中すれ違った一人の男子学生が健さんを通り魔を見るような目で見て一歩後退る。

「お前そんな小さな子を……そういう趣味が……」

「ちげぇよ親戚の子達を案内してるんだよ。お前はサークル活動か知らんがどっか行っとけ!」

「へいへい……」

「それでどこまで話したっけ?」

「キュアヒーローの仮説についてまでですね」

「じゃあ次はイクテュスについて話そうか。ちょうど良い。この学校の図書館を見せてあげるよ」

図書館。本を読むのがあまり好きでない私にとってはあまり波長が合わない空間だが、偶には良いかもしれない。

私達は次の目的地へと足を運ぶのであった。

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    「へぇーじゃああの二人は仲直りできたってこと?」 翌日の日曜日。私達は勉強会を開いていた。といったものの主に私が波風ちゃんに教えてもらっているのだが。その過程で息抜きにお菓子でも食べようという話になりこうしてドラッグストアに買い物に来ていた。 「あっ! 高嶺に波風じゃない!」 お菓子コーナーを物色していると偶然朋花ちゃんに出会う。 「あの……弟は大丈夫だった?」 昨日朋花ちゃんの弟は警察に保護された後に病院に運ばれた。私達はその後の事は知らない。すぐに手当てしたとはいえ二日近く放置されたのだ。重大な後遺症が残っていても不思議ではない。 「とりあえず命に別状はないし後遺症とかもないって。退院は様子を見て三日後だって先生が言ってた」 「ほっ……それは良かった」 「あれ? 何で高嶺がそのこと知ってるの?」 「あっ……それは……」 ドンッと波風ちゃんの肘が私のお腹に突き刺さる。 [何ポロッと失言してんのよアンタ!] [ご、ごめん波風ちゃん〜弟君のことがつい気になっちゃって!] [はぁ……アタシが誤魔化すからこれ以上余計なこと喋るんじゃないわよ] 「昨日のキュア配信に弟君が助けられる姿が映ってて。でもその後は映ってなかったからどうなったのか心配で……」 「えっ、そうなの!? 見てなかったから知らなかったよ……まぁとにかく弟を助けてくれたんだしキュアヒーローには感謝しないとね」 なんとか誤魔化せた。それにしても本当に私はついうっかり失言してしまうことが多い。 (気をつけないと……) 「あっ、今手に持ってるのってもしかして弟君に持ってくの?」 「そうだけど……あ、高嶺と波風も来る? そうした方がアイツ喜ぶと思うしさ」 「もちろん行くよ! 波風ちゃんも行くよね?」 「当たり前でしょ? 仲間外れにするつもり?」 軽口を叩きながらも波風ちゃんも快くついて来てくれる。会計を済ました後私を先頭にしてドラッグストアから出る。 「きゃっ!!」 しかし私は大柄な人にぶつかってしまい大きくよろめく。 「またお前か……」 小さく溜息を吐くそのぶつかった相手は健橋先輩だった。相変わらずの体幹で向こうは全くよろめいていない。 「ひっ……鬼の神奈子……!!」 彼女の寝不足が拍車をかける恐ろしい形相を見て朋花ちゃんは体を震わし

  • 高嶺に吹く波風   27話 矛盾の解釈

    「とりあえずあの子は警察に引き渡ったらしいな」 戦いが終わり私達はマンホールを登り外に戻る。男の子二人は波風ちゃんに任せ、彼女は今行方不明の子を保護したとして事情聴取を受けている。 一方私達は田んぼの近くで変身を解き息を整えていた。 「今回はなんとかなったね。二人のおかげだよ。ありがとう」 私は二人に手を伸ばすが受け取られることはない。健橋先輩が地面に腰掛け座る橙子さんに迫り寄る。 「天空寺の言う通りなんとかなった……これでイクテュスに関してのいざこざは終わったな」 「そうだね……で、何か用?」 互いに牽制し合い、戦った後だというのに疲労を感じさせない目つきで睨み合う。 「もう言う必要もないだろ……」 「そうだね……リンカルやキュアリンが来る前にケリをつけようか」 二人ともスッとブローチを取り出す。それを服につけようと手を胸元に持っていく。 「だめ!!」 私は一歩踏み出し健橋先輩の頬を引っ叩く。思いもよらなかった所からの一撃を避けれずクリーンヒットして彼女の頬は赤く腫れ上がる。 「えっ……高嶺? 何をやって……」 困惑したのは橙子さんもだ。だが私は橙子さんにもビンタを放ち頬に紅葉を作る。 「いてて……親にも打たれたことはなかったんだが…….」 「どういうつもりだ天空寺? いきなりぶちやがって」 双方の注意が私に向けられる。とりあえずは一触即発の事態を脱却できた。 「二人が啀み合うことが納得できなかったから。でも話しても分かってくれなさそうだから……だから叩いた」 私は物怖じせず正直に、率直に自分の考えを述べる。 「そんな暴力的な……いや、わたし達は文句言える立場じゃないか」 「ちっ……お前と同じ意見だなんて最悪だよ」 やっぱり二人は互いに悪態をつきながらも根本の部分は似通っている。一人で抱え込んで己の意志を貫こうとしている。 「私にとって二人も守りたい、笑顔になってほしいこの街の人なの。だから傷つけ合ってほしくない」 二人は黙って別々の方向を見つめる。しかしその四つの瞳は同じ街を同じ志で見守っている。それだけは間違いない。 「リンカルから聞いたよ。キュアフィリアの、翠さんの話」 「ちっ、あの野郎勝手に……」 「あはは……知られちゃったか。幻滅した?」 「その件で誰が悪いだがとか、こうす

  • 高嶺に吹く波風   26話 三位一体

    (ちょっと臭うな……) 農薬なのか排泄物なのか、あまり長居はしたくない匂いが鼻を刺激する。しかし人命がかかっている以上そんなこと気にしていられない。 ノーブルを先頭に私達は下水道を走って反応に近づいていく。 [みんなもうすぐだ。気を引き締めてくれ] 反応のある場所まであと少し。そこまで来たところでノーブルから一言注意がかかる。 「あっ!! あそこに子供達が!!」 下水道の壁にもたれかかるようにして二人の男の子が気を失っていた。片方は先程の子でもう片方は朋花ちゃんの弟だ。 「だいじょ……っ!?」 イクテュスの反応はもう少し先だ。ノーブルとアナテマに見張ってもらい私とイリオはこの子らに肩を貸そうとする。しかし朋花ちゃんの弟のその冷たさに一瞬恐怖してしまう。 だが死んでいるわけではない。低体温症だ。弱らされて放置され体が冷え切っている。 「そうだ……イリオ! 熱の力で……」 「そっかアタシの力なら……」 イリオが能力で熱をこの子に移して危険な状態から引き戻そうと試みる。だがそんな彼女にイクテュスの魔の手が迫る。 「ウォーターシールド!!」 私は新たに作り出した技を使う。何層にも力を込めた水をカーブミラー状に固めて盾にする。 奴の足はそれを破れず攻撃はイリオには届かない。 「なるほど……前アタイが倒した分は戻ってないみたいだな」 ノーブルとアナテマの方にも別々の分裂した奴が攻撃を仕掛けていたが、二人は気を乱さず攻撃に対処する。 しかし不意打ちが失敗し不利だと判断すると奴らは一目散に逃げ出す。 「追いかけるぞ!!」 アナテマを先頭に闇で逃亡を妨害しつつ追いかける。 「あいつらは私達に任せてイリオはその子達をお願い!」 「分かった! 絶対に逃さないでよ!」 低体温症を発症している子と先程連れされたばかりで困惑する子はイリオに任せる。その後私達三人が百数メートル走った後にイクテュス達は諦めピタリと空中で泳ぎを止める。 「三体別々で動くはずだ……助けは期待しないでくれよ」 「言われるまでもねぇ。アタイがまとめて倒してやってもいい」 二人とも一切の物怖じを感じさせない気迫だ。私も負けていられない。 「これ以上被害を拡大させないためにも今ここで確実に倒す……みんないくよ!!」 私の掛け声が試合開始

  • 高嶺に吹く波風   25話 追い込み猟

    [えーと、今ある反応の方に行けばいいんだよね?] [そうだ。そこに俺が居る。近くの電柱に白いタオルを巻いといたからすぐに分かるはずだ] 土曜日の夜遅く。私とイリオは夜の街を颯爽と駆けていた。 昨日イクテュスと戦った田んぼ道を走っているが本当に人が居ない。 「暗いから逸れないようにね。ちゃんとアタシのあとついて来るのよ」 「うん分かってる。目印がないから逸れたら大変だしね」 人が居ないだけではなくここは電灯があまりない。おかげで偶に通る車から闇に潜んで隠れられるが少し先は真っ黒だ。 「あ! あったあそこじゃない?」 私は聞いてあったタオルが巻かれた電柱を見つけ指差す。 「ん〜と……あっ、あれね! もうノーブルとアナテマも来てる……」 「えっ!? もしかしてまた戦い始めたり……」 「いやそんなことはないみたいだけど……とにかく行ってみましょう」 私達は二人が居る道路から死角になっている田んぼの所に入り屈んで潜む。 「やぁ来てくれたね二人とも。今回の相手は数が増えるタイプだから心強いよ」 つい先日あんな姿を見せバチバチだったのに、ノーブルは何事もなかったかのように話しかけてくる。アナテマも一瞬こちらに視線を向けるがブローチを取り上げようとする気配はない。 「全員集まったみたいだな……」 田んぼの稲の間からキュアリンがひょこりと姿を現す。 「リンカルは別の場所で準備してくれている。とりあえずお前達はしばらくここで待機。反応が出たらすぐにそこに向かってくれ」 「深入りはしないけど、その作戦は本当に上手くいくのかしら? 信じてないわけじゃないけど都合が良いというか……」 キュアリン自体は信頼しているが、その作戦自体は正直半信半疑だ。 「とにかく俺を信じ……」 脳内に信号が送られる。いつもキュアリンが送ってくれるものだ。 場所はここからそう遠くなく人の走る程の速度で移動している。 「これに行けばいいんだよね!?」 「そうだ! 配信はタイミングを見計らって開始させる! 後は頼んだぞ!」 私達四人は一斉に駆け出して反応のある方向に走り出す。経験からか先輩二人の方が速く先行する。 「追いついたっ! あそこだ!」 ノーブルが光の粒を高速で飛ばしイクテュスにくっつけ目立たせる。奴は小学生くらいの男の子を抱いて

  • 高嶺に吹く波風   24話 傷つけ合う似た者同士

    「へぇ……あの桐崎グループのお嬢様がこんな庶民御用達のスーパーに居るなんて意外だな?」 神奈子はわたしの顔を見るなり敵意を剥き出しにして毒を吐く。人前なので流石に変身はしないが、もしこの場所でなければ間違いなく殺意を爆発させ襲われていた。そう思うほどの気迫だ。 「別にいいだろ。君こそ一人でそんな食べるのかい? 随分食べ盛りなんだね」 カートには食材が大量に詰め込まれており明らかに一人で食べる量ではない。 「お姉ちゃーん! このお菓子買って!」 わたし達の険悪なムードを壊すように幼い男の子がお菓子片手にこちらに来る。紫色のよくある知育菓子だ。わたしは生憎食べたことはないが。 「お菓子はさっき籠に入れただろ。お菓子は一つまでだ」 弟らしき子に向ける顔はわたしへのものとは大違いであり優しさに満ち溢れている。きっとあれが本来の神奈子の顔なのだろう。 それを壊したのは……わたしに向けるあの形相に変えてしまったのは……翠を死なせたわたし自身だ。 「あれ? そこの人は? お姉ちゃんのお友達?」 「なっ……そんなわけないだろ!」 わたしへ向ける憎悪と家族への愛情がごちゃ混ぜになり神奈子は大変やり辛そうに表情を泳がせる。 「そうだねお姉ちゃん友達少ないもんねー」 「なっ……お前……!!」 (家族仲……良さそうだな……) 笑顔が溢れ互いに隠しなく感情を表現し合える仲。それがわたしにとっては眩しく羨ましく映った。 「神奈子。また今度」 「……あぁ」 こんな状況でお互い啀み合うわけにもいかない。わたしは彼女の横を素通りしプリンを探そうとする。 [神奈子! 橙子! イクテュスの居場所が分かるかもしれないのだ!] お互い反対方向に向かい別れるはずだった。しかし進行は同時にピタリと止まる。 「大河……ちょっとお姉ちゃん用事ができたからお会計頼めるか?」 神奈子は財布を取り出しカートと共に弟に渡す。 「え〜ならお菓子もう一つ!」 「分かった……好きなの二つ買っていいから良い子で待ってるんだぞ」 「わーいありがとう! お姉ちゃん大好き!」 大河君は天使のような笑顔を浮かべカートを押していく。 「分かってるよな?」 「もちろんさ。そこら辺は弁えている。邪魔にならないように隅っこでやろうか」 わたし達は人があまり通らな

  • 高嶺に吹く波風   23話 背負う罪

    「ごめんね……神奈子ちゃん……それに……ノーブル……」 わたしの目の前で一人の命の灯火が消えようとしている。共に戦った仲間はある一人の事情の知らない女の子の膝で血を吐き顔を青ざめさせていく。 「おい翠……なんだよこの怪我……何があったんだよ!?」 「神奈子ちゃん……あなたは……」 何を伝えようとしたのかその真意が分かることは一生ない。ガクンと彼女の全身から力が抜け落ちる。 「おい……おい翠!! 翠!!」 どれだけ揺さぶろうとも彼女が目を覚ますことはない。腹に大穴を開け内臓損傷だけでなく流れ出る血の量から判断しても蘇生は不可能だ。 「なぁお前……キュアノーブルだろ?」 涙を流しながらも神奈子と呼ばれた子はこちらに問いかけてくる。 「何があったんだよ……なんでこんなことに!?」 「それは……その……」 はっきり喋ることができない。人前で話すのは得意だったはずなのに、起こったことをただ話せばいいだけなのに後ろめたさが喉を締め付け声を発することを許してくれない。 「何か知ってるんだろ!? なんとか言えよ!!」 神奈子は行き場を見つけられない怒りを背負いこちらを怒鳴りつける。 「……このことは忘れた方がいい。キュアヒーローのことはもう忘れてくれ」 わたしはそれだけ伝え逃げるようにこの場から立ち去るのだった。 ☆☆☆ 「……はっ!!」 また何度目かの同じ夢を見てわたしはベッドから飛び起きる。 「ぜぇ……ぜぇ……」 まるで何かから逃げるため全力疾走した直後かのように肺に酸素が足りておらず、わたしは必死に息を吸い込む。 「七時か……」 時計は七の刻を示している。土曜日だとはいえ休日をダラダラ過ごすなんてことはしない。わたしは寝巻きからキチンとした服装へと着替え、その後メイドが作った朝食を食べに呼ばれる。 「橙子。最近調子はどうだ?」 今日は珍しく両親が家に居て一緒に朝食を食べることになった。わたしがスープを口に運んでいると父様がそれとなくありきたりな話題を振ってくる。 「問題はありません。桐崎の名を継ぐ者として恥がないよう生活しています」 「そう……でも一時期……二ヶ月ちょっとくらいかしら? 成績がすこぶる落ち込んでいたけれど大丈夫だったのかしら?」 母様が痛い所を突いてくる。一瞬手が止まるが何事なか

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